2009年07月19日

ネオテニーからインタートラベラーへ

ネオテニーからインタートラベラーへ

上野の森美術館で開催されていた展覧会「ネオテニー・ジャパン」
もう半月前ほどの話。行くまいかどうか迷ったが好き嫌いは抜きにして行かなければいけない展覧会と思い直し出掛けた。展示されている作品群が決して嫌いではないが、と言うより好きなのだが、何となく漂う「今さら」感が足を遠のかせていた。でも去年の夏にこの展覧会が鹿児島で始まったときはよっぽど現地に行こうかと思ったほど観たかったもの。それは叶わないことが分かっていたので図録だけは購入し翌年に開催される上野を待つことに決めたのだった。それほど愉しみにしていた展覧会だったのだ。でも不思議なことに上野での開催が始まっても勢い勇んで行くことはなかった。何故だろうか。それは1年間の現代美術を取り巻く環境の変化からくる「out of date」的な感覚のように感じられる。または図録だけでなく他メディアによっても大量に露出されている出品作品への既視感。それにまつわるテクスト。あるいは作家の露出。それらが展覧会を十分に体験してしまったと自分自身に刷り込ませてしまう。
美術品が1年間で時代遅れになることはありえないことだろうが、情報過多による陳腐化とでもいうような状況がまるでデジタルデバイスの新製品が半年経つと輝きを失うのと同じような雰囲気を僕に感じさせていた。

でも結局はもちろん行ってきた。90年代以降の日本の現代美術のある文脈を押さえてるといった意味ではやっぱり行かなければ行けない展覧会だったから。そしてもちろん正解だった。それらはメディアの印象とは違ったものとして存在しているし、全体を把握しながら個々を観ていくのは実体験しか得られないものだからだ。当然というば当然。結局「今さら」感は自分が作り出していたものだったようだ。このコレクションが伝えてくるものは確実にあったし、高橋氏の提唱する「ネオテニー」を通してこれらの作品を観る経験も楽しかった。そしてこれに続く「マイクロポップ世代」とを関連づけるとさらに興味深くなる。

展覧会に入場してまず最初に出会うのが鴻池朋子さんの作品群。
何度となく作品を見ていますがどんどん気になる作家となっている。いつも不思議に思うのは平面、立体、映像、インスタレーションとさまざまなメディアを駆使していながらも、相互補完的な感じではないこと。表現方法にヒエラルキーが見当たらない。ストンと腑に落ちるようにそれぞれの作品がメディアに落とし込まれている。もちろん作家のスキルの高さの証明かもしれませんが、それが縦横無尽とことさら強調するのではなく、しなやかで継ぎ目も無くクロスオーバーしているようなところに驚かされます。
これまではその神話的世界に興味を持つものの、その森へ一歩足を踏み出せないといった具合だったが。でも今回の展示でもう少し森の奥へ分け入ってみたい誘惑にかられた。(と同時にグッズショップで鴻池さんの作品に登場するキャラクターのぬいぐるみがあまりにも可愛かったので衝動買いの誘惑にもかられた。結局2つ購入してしまったのだが。笑)
そんな折りに大規模な個展がオペラシティで開催されることを知った。スケールの大きい作品もあの場所なら無理なく表現出来るのでしょう。これもまた行かなくてはならない展覧会。いよいよ鴻池ワールドのトラベラーとなるときが来たかもしれません。


HPはこちら >> 鴻池朋子 展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人

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Posted by 柚木康裕 at 20:59│Comments(6)アート・美術
この記事へのコメント
今日、見てきました、オペラシティ。
位置づけやら、解説やら、それ以前に、泣き出しそうな衝撃がありました。

不安が「信じる」を呼び、「信じる」が言葉を与える。
肉体を皮で閉じることで、自己と世界が分離する。

はっきり覚えていないけれど、そういうセンテンスが紹介されていて、
そういうふうに「言葉」にできるって、すごいなあと、また衝撃うけました。
Posted by I.M at 2009年07月20日 23:48
> I.M さま

コメントありがとうございます。

 泣き出しそうな衝撃。

何か分かるような気がします。
更に愉しみになりました。早く観たいですー。

YouTubeで観る限りでは鴻池さんははっきりと言葉で語る人ですね。
凛とした姿勢が印象的です。

完成した作品が世界に属してしまうとしたら、作家にとって
かつて自己だったそれを繋ぎ止めるのが(あるいは確認する
のが)言葉かもしれませんね。
Posted by (ユノキ) at 2009年07月21日 11:01
お久しぶりです!

ネオテニージャパンに感じていたニュアンス、すごくわかります。
何せコピーが「世界が注目する、ニッポンの現代アート基礎値知識」ですからね…。基礎知識って…。笑
でもその「基礎知識」を俯瞰できるのも貴重な経験でした。

鴻池さんについての言及、素晴しいです。
彼女のような強い世界観や思想に支えられたマルチメディアな作家は本当に興味深いです。うちの最寄り駅は、彼女のパブリックアートでもう大変な事になっています。笑。駅の入り口の壁や柱が、彼女の特徴的な動物や植物、そしてナイフ(個人的にこのモチーフが好きです)で彩られています。何をしていても、「あ、鴻池さんだ」とわかりますよね。
オペラシティ、僕も足を運ぼうと思います。
Posted by 杉山剛 at 2009年07月23日 23:29
> 杉山 さん

こちらこそお久しぶりです!
お元気ですかー。

コメントありがとうございます。
そう言って頂いて嬉しいやら恥ずかしいやら。笑

どちらにしましても日本の現代アートは独自な展開を見せているように思いますね。携帯電話がガラパゴス的進化を遂げていると世界から揶揄されるような・・。笑
でもそれを悲観するのでなくしっかりと展開することが大事だと思いますがいかがでしょうか。

初台あたりはそんな状況なのですね。
ホント早く観てみたいです。でも早くても8月中旬ですかね。
ばったり会ったら声掛けてくださいね!笑

「しいてゆう」の更新も愉しみにしていますー。
広島弾丸ツアー充実してましたね!
APE、チョー似てます。笑
Posted by (ユノキ) at 2009年07月24日 01:20
ネオテニーというコトバが、いまさら感なんですよね。笑
でもホントに、基礎知識というか、入門編な感じでしたね。
再確認!という感じ。個人的には、あ~コレコレ!!みたいなのの連続で、結構楽しめました。
これが美術館が企画して集めて来たのだとしたら怒っちゃいますが、個人のコレクターが全部集めたっていうのがスゴいです。先見性もあるわけでしょうし。なかば意地というか、使命感みたいなものを感じます。
私が行った日は、ちょうど鴻池さんのトークの日で、霧島でやったワークショップの話が興味深かったです。
美人だし、ナビ役の学芸員さんよりお話上手でした。笑
オペラシティは来月行く予定です。
Posted by SHIZU at 2009年07月29日 17:07
> SHIZU さん

しっかりチェックしてますね〜。さすがです。
しかも鴻池さんのトークの日とは、羨ましい!笑

>なかば意地というか、使命感みたいなものを感じます。

やっぱり感じますよね。笑
それにしても沢山の作家さんとお話出来るのはこの上ない愉しみではないでしょうか。
それもまた現代アートの醍醐味でしょう。(ちょっとミーハーかな・・。笑)

オペラシティの8月は混雑しそうですね。
落ち着いてじっくり観れるといいなあ。
Posted by (ユノキ) at 2009年07月29日 18:40
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